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2021.03.01

What is “effective” user research? 〜ユーザーリサーチが導くグッドデザイン〜



ここ数年デザイン思考が重要視され、新たな製品やサービスのイノベーションプロセスが変化し、 “リサーチ” のあり方もユーザーセンター寄りにシフトしています。よりクオリティの高いリサーチを行うにはどのような点に気をつけたら良いのでしょうか?

一般的な定量的(Quantitative)と定性的(Qualitative)の両側面からのアプローチ


従来のユーザーリサーチでも、「100人中80人が使いたいと回答した」などの数値を指標に需要を測る定量的リサーチと、数名のターゲットユーザーに実際に使用してみた感想を掘り下げて聞いていく定性的リサーチが存在します。デザインシンキングの視点からも大きく分けてこの2つのリサーチがベースとなりますが、アプローチの方法を変えることで発見が生まれたり、効率的な情報収集が可能となり、リサーチの質も高まります。

聞きたい回答を聞き出していた従来のリサーチから、オープンエンドなリサーチへ


新しい製品が生み出される際、「この商品は需要があるに違いない」という仮説からモノづくりに着手し、無意識に望ましい回答に誘導している可能性があります。投資家や上司を納得させるための数字を提示するためのリサーチではなく、本質的な問題点をポイントアウトすることで、本当にユーザーの求めているものや、ユーザーすら気がついていない新たな利便性を提供することなどが可能となり、イノベーションやベターデザインに繋がります。

たとえば、タスク管理アプリを制作するシーンにおいて

・タスク管理することが面倒くさい Yes / No
・アプリでもっとスムーズにタスクを管理したい Yes / No

といった質問ではYesの回答を多く得るのは必然で、100人中80人のYesがあったとしても「だからタスク管理アプリは需要がある」と紐づけるのは無理があると同時に、どのようなアプリにしていくかといった情報は得られません。

定量的リサーチでは、「タスクを管理していますか? Yes/No」といったバイアスのないノンリーディングクエスチョンや、タスクを管理するのはなぜですか?」といった回答自由形の質問が有効です。

また、フォーカスグループに対して定性的リサーチをする場合にも、こちらの欲しい回答が得られるような誘導をしないことが重要で、ユーザーの回答からいろいろと紐解いていくことが必要です。

・なぜタスクを管理しなければならないのか → 管理しないと忘れてしまうから
・なぜ忘れてしまうと困るのか → 信用を失ってしまうから
・なぜタスクを忘れてしまうのか? → しなければならない仕事がたくさんあるから / 他にもすることがあるから
・どんなタスク管理ツールを試したか? → 付箋、リマインダーアプリ、Alexa、ホワイトボード
・タスク管理ができない理由 → タスクが溜まりすぎてやる気がなくなる / タスクを入れることで満足してしまう
・どのようなタスクがあるか → メールを送る、資料の作成、

……と挙げていけばキリのない「タスク管理」にまつわるポイントが浮かび上がります。「管理」に注力しすぎて無理矢理タスク化してしまったり、無駄に増殖したタスクが溜まってしまうことでタスク管理自体に圧倒されてしまうといった問題点も見えてきます。

では、タスクを「達成」させることに重点を置くとどうなるか……という新しい機能の可能性が生まれてきます。タスク管理アプリとタスク達成応援アプリでは最終的なゴールが異なるため、考慮する機能やデザインも変わってきます。

また、質問&回答だけがユーザーリサーチではありません。ユーザーの動向から問題点をIdentifyすることも一つの方法です。

たとえば、リサーチの目的は伏せ、ランダムなユーザーグループに複数のタスクを課します。そのタスクを実行する様子を許可を得て動画撮影してみると興味深いデータが見えてきます。アンケートでは、タスク管理はアプリの使用が圧倒的に人気があるように見受けられるのに対し、直近のタスクやイレギュラーなタスクはそれに限りませんでした。メモ帳や付箋などアナログ方式で管理するユーザー、必死に記憶しておこうとするユーザー、第三者にリマンダーを求めるユーザー、手に書くユーザーなど、実にさまざまな方法でタスクを管理していることが見えてきます。

いかにシンプルに迅速にタスクを入力できるかという点が重要であるという気づきをもとに、未来の自分への伝言ができる機能はどうか、などの可能性が広がります。

また、アプリの開発に固執せず、従来のタスク管理メソッドを生かしたデジタル付箋や、おしゃれな黒板など新商品のアイデアにもつながるかもしれません。アプリの開発においても、必要そうな機能の充実に重点を置くのではなく、ユーザーがどのような行動を取るかをバイアスなしで見た際に、余計なものを省いたシンプルな機能に行き着くこともしばしばです。

ユーザーリサーチに動画を用いる利点は、プロジェクトの方向性を決めて進行する際に、実際のユーザーの動向を表すエビデンスになる場合もあります。「誰ももうアナログツールなんて使ってないでしょう。アプリで管理が基本だよ」と言う上司や投資家、クライアントに対して「いや、実際のユーザーの動向は」と証拠動画を見せることで計画遂行がスムーズになります。

フォーカスすべきユーザーとペルソナ設定


リサーチにあたり自分の周辺のユーザーをターゲットユーザーにしてしまうと、バイアスがイノベーションを妨げてしまううえに、リサーチ自体を軽視してしまいがちです。タスク管理が必要なユーザー層をビジネスパーソンだと決めつけ、「自分自身がユーザーであるからユーザーの気持ちが分かる」とリサーチせずに開発に着手してしまうと、発見の機会を失ってしまうのです。ユーザーリサーチを行ううえで、まずはどれほどEmpathyを育めるかという意味も含め、自分とは異なるユーザーグループに対してユーザーリサーチを進めるというのも有効な手段になり得ます。

ユーザーリサーチにおいては「ユーザーの気持ちになって考える」というEmpathizeという点が大切です。「私は〇〇ではないから分からない」と制限してしまわず、他のユーザーグループを知ることは、商品開発やサービスデザインの領域以外にも、組織づくりや政治などにも有効だと思います。

一定の質問からユーザーの情報を得るというより、ユーザーの立場になって「私がユーザーだったら」という目線で物事を考えるためのユーザーリサーチという考え方が、有意義なリサーチへとつながるでしょう。

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