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2019.08.18

"アート、テクノロジー、お金"

© Kennedy Library

LightWave 3Dなどのソフトウエアで知られるコンピューター・グラフィック・ソフトウエア会社 NewTekの創立者であり、発明家のTim Jenisonが自らの手でクラシック名画を再現するというドキュメンタリー映画「Tim’s Vermeer」。そもそも「アーティストとは何か」を様々な観点から考え直させる、Controversialな(物議を醸し出す)作品として、Rotten Tomatoesなどのレビューサイトで高評価を獲得しています。

日本語ではVemeerはオランダ語に近い「フェルメール」と発音することが多く、写実的な手法と綿密な空間構成が天才的と称されるバロック期を代表する画家の一人です。「真珠の耳飾りの少女」などは日本の教科書などにも掲載されており、見たことがある方も多いのでは。

「Tim’s Vermeer」はそんな天才アーティスト、フェルメールの技法は、実は鏡や映像技術を駆使して描かれたものだという仮説を立て、実際に同様の技法を用いてフェルメールの絵画を再現させるというプロジェクトを撮ったドキュメンタリー映画です。

「これまで絵なんて描いたこともない」と言うIT会社の社長Timが、仮説に基づき鏡を用いてマスターピースを完成させたというこの映画は、「フェルメールは天才画家だった」という定説を「フェルメールは天才技術者だった」と言い換えるべきなのか、歴史的に見ても困惑を産む作品です。

「鏡を使った場合に、ある一定の場所がぼやける」といった部分もフェルメールの絵画に見られ、実際に再現してみると仮説の信憑性が高まります。もし本当にフェルメールが鏡を使っていくつもの名画を生み出していたとしたら、そして鏡を使えば誰もが同様の絵画が描けたとしたら?「

方法は何であれ、最終的な成果物が、人に感動を与えるものであればそれでいい」というフェルメールに対してサポーティブな意見と「詐欺師だ」という反対意見が見られます。

フェルメールを含め、名画を残した「天才画家」として認められたアーティストにはある共通点が見られます。レオナルド・ダ・ビンチ、ピカソ、ミケランジェロ、モネ、etc。そう、全員白人男性であるということです。

革命的で、「天才画家」として基準を満たすには白人男性でなければならなかった理由は、彼らを評価する人々が白人男性であったという社会的背景以外に、革命的なアートを遂行するにはお金が必要だったということを表しています。天才画家たちの成功の裏には必ずパトロンの存在があり、 アートを継続させるのも、クオリティを高めるのも、新しい技術を発明するのにも、資金は重要な要素であったことは間違いありません。当時、白人男性以外にそれらの権利を与えてもらうことは難しく、アートは白人男性のprivilege(特権)だったとも言えます。

このフェルメールの仮説を証明するためにTimが費やしたお金と時間は相当なものだったと映画を通じて伺えます。絵画と同じ部屋のセットをそっくりそのまま作り、約1年かけて一つの絵画を完成させています。それだけのパッションも評価に値しますが、実現させる財力が、結局はこの映画を生み出しました。過去にもしかしたらフェルメールは鏡を使ったに違いないと唱えた人もいたかもしれませんが、Timのように再現する余裕を多くの人は持ち合わせていません。

アートが先か、お金が先か、お金があれば素晴らしいアートができるとは限りませんが、 素晴らしいアートを作り出し、それが評価されるには、今も昔もお金は必要不可欠です。 そしてアートを作り出すにはテクノロジーの存在は無視出来ません。

レオナルド・ダ・ビンチがサイエンスを学び、遠近法や透視図法をアートに取り入れたことは有名ですが、他の天才と呼ばれるアーティストたちも様々な技法とテクノロジーを利用してアートを作り上げています。ペイントブラシも発売当初は立派なニューテクノロジー。フェルメールの鏡も、現代のアプリケーションを使ったデジタルアートも、サンプリングも、個人的には全然「アリ」で、むしろ鏡を使ってあのアートを完成させたという仮説が真実であったなら、アートのためにあの発明をしたことをむしろ評価したい思いです。

References:
https://en.wikipedia.org/wiki/Tim%27s_Vermeer
http://www.howtotalkaboutarthistory.com/reader-questions/tims-vermeer-artistic-genius/


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